フレミングの左手を廻る半永久回路
二
都会から随分離れた場所に、その施設は建っていた。
新たなエネルギー供給媒体を研究しているというだけあって、一見して分かるほどに大きな敷地を有している。ただほとんどは発電法を模索するための実験施設らしく、池や山林、川などの自然がほぼそのままの状態で残されていた。
その中にあって、施設の入口を担うようにやけに目立つ白い壁に覆われた、奥に長い構造の建物が聳(そび)え立つ。輝かんばかりの白亜の外観に反し、奥側に誂(あつら)えられている高い煙突から黒々とした煙が上がり続けているのが妙な違和感を与えていた。
主要研究棟と思しきそれから距離を置かず建てられている守衛室と入場ゲートを前にして愛車を停め、蛮と雪彦はさてと小さく息を吐く。
「安全なエネルギー供給法を研究してるって言う割に、あんな真っ黒な煙上げてて文句言われねぇのか、ここは。どう見たって地球にやさしー発電方法の研究結果には見えねぇだろ」
「うん、確かにあれはちょっとおかしく見えるけど……でも表向きの姿勢を信じていれば、普通の人からすれば多少の違和感は払拭されてしまうような気もするよね。それで? ここまで来たはいいけどどうやって中に入るのかな。僕が依頼を断った以上、他の護り屋を雇っている可能性もある。まさかこんなところで邪眼を消費するつもりじゃないだろう?」
「ったりめーだ、んなもったいねーことしてたまるかよ。こういうところに入り込む時にゃ、俺達ならではの得意技があるんだ。後ろのシートの下に馬鹿でかいボストンバッグがあるだろ。それ取れ」
言葉通り後部座席を顎で指し示し、大上段から物を言う。和解するまでの間に兄達からも散々聞かされ、過去数回顔を合わせただけでも充分に分かっていたことだったが、雪彦はそのあまりに尊大な態度に苦笑を零した。
されど仔細を気にしていては銀次救出の妨げになると理解し、指摘もせずに受け入れる。言われた通り後部座席の下に無理矢理押し込まれていたボストンバッグを引っ張り出すと、そのなかなかの重さに興味を惹かれファスナーを開けた。
見れば、綺麗に畳まれた状態でぎっしりと詰め込まれている様々な服が目に入る。
「……えーっと? これでどうするのかな」
「服は着るモンに決まってんだろ。さーって今回はどれにすっかなー。もう昼時も過ぎてるから寿司屋ピザ屋弁当屋の類はちょーっと苦しいか? んなら無難に宅配屋か郵便か、それとも保険の訪問員ってのも……」
「え、いやいやいや!? ちょっと、ちょっと待って! 変装!?」
「他になんの衣装に見えるってんだよ」
慌てふためく雪彦の言葉が気に入らなかったのか、些か機嫌を損ねた様子で蛮が唇を尖らせる。開き直るでもなくまるで自分の考えこそが世界の常識と言わんばかりのその姿に少々戸惑い、雪彦はもう一度バッグの中身を確認した。
改めて見れば、確かにどこかで見たような色の服ばかりが目に留まる。畳まれ詰め込まれている現状でこそどれがどれとは言い切れないが、広げてみれば恐らく見慣れた制服類が姿を現すのだろうと思わず引き攣った。
大量の服の中に埋没してはいるものの、どう見てもセーラー服と思しきものまで目に入ったのには思わず頭痛を覚える。
「……君達の得意技ってことは、普段はこれを銀次君もやってるんだよね……」
「なんだよ。文句あんのかテメェ」
「いや、ないよ。ないけど、うん。まさかこんな手を使ってるとは思ってもいなくて……。僕の中にあった君達のイメージがちょっと崩れちゃったって言うか……」
「アイドルはクソなんぞしねーと思ってる女子中学生か、テメーは」
言いようのない落胆に肩を落とす雪彦を嘲笑し、素知らぬ顔でバッグを漁る。傍目から見ている分にはどうもこのコスプレを楽しんでいるとしか表現しようのない蛮の様子に、眼鏡の奥の瞳が困ったように眉尻を下げた。
「あのさ、美堂君。その作戦に出る前に一回だけ、僕の考えた方法を使ってみてもいいかな。それが駄目なら大人しく君のやり方に従うから」
「あー? ……まぁ、一回ぐれぇなら待ってやってもいいけどよ」
遠慮がちに切り出された提案に、多少不満を顔に出しながらも渋々了承する。なんのかんのと言いながらも個人の意見は出来る限り尊重する蛮の性格を微笑ましく見遣り、雪彦は小さく感謝の言葉を述べた。
そのまま車を降り、守衛室へと歩き出す。
突然の行動に慌てたのか同じく車を降りて制止の声を投げようとした蛮だったが、守衛室の前で立ち止まり、にこやかに話し始めた雪彦を見て押し留まった。
世間話でもするかのような雰囲気に、眉間を顰めて様子を窺う。やがてなぜか申し訳なさそうな守衛が部屋から出てくると、雪彦は凡人の目には捉えられぬほどの速さで背後へ回り、その頸椎を軽く一撃した。
事態の把握はおろか、恐らくは痛みを感じることすらなく意識を手放して傾(かし)いだ守衛の体を受け止めて室内へ入る。そのうちごく当たり前の様子で手招く聖人のごとき笑顔に、蛮は呆れ返りながらも車を進めた。
ゲートが開かれ、客人のように入門する。侵入者でありながら来客用駐車スペースに停車することに座りの悪さを感じながらも、敷地内に停めてさえいれば咄嗟の際に逃げ出しやすいかと考え直して頭を掻いた。
愛車にしばしの別れを告げ、既に施設入口に立っている雪彦に歩み寄る。
「まさか守衛に話しかけるたぁ思わなかったぜ。気絶させるにしたってそこのちっこい窓からじゃあ無理だが、部屋の外ならやりようなんていくらでもある。どうやって部屋から引っ張り出した?」
怪訝に睨み上げる蒼紫の前に、入門許可書がぶら下げられる。
「簡単だよ。先日とある件で鮫島さんとお会いした際に色々と資料をお借りしたんで返しに来ましたって言っただけ」
「鮫島? ……あぁ、さっきの資料に載ってたここの責任者か。それにしたって普通はそういうのが来るっつって、事前にそいつから守衛に連絡があるはずだろ」
変装などせずとも堂々と施設内を歩ける重要アイテムを首から提げると、この順調さがますます気に入らない口振りで蛮が重箱の隅をつつく。その子供じみた拗ね方をさも面白そうに肩を揺らして笑い、雪彦は施設入口の自動ドアの前に立った。
「コピーばかりだから返さなくていいと言われたけれど、社外秘と書かれたものが混ざっていることに気付いて慌てて持ってきたってことにしたよ。そのついでに、やっぱりコピーと言えど大事な研究資料を簡単に頂いてしまうわけにはいかないとも付け加えてね。それなら重くて一人じゃ持てないから一緒に頼みますと言っても違和感はないし、本人から連絡がなくてもおかしくないだろ?」
「とんだタヌキ野郎だな、テメーも」
「我が一族の家業が家業だし、こんな裏側の仕事もやってるからね。多少の老獪(ろうかい)さは持ち合わせてないと生きていけないよ」
「そりゃそうだ」
それきり一旦口を噤(つぐ)み、二人は何食わぬ顔で白い廊下を往く。許可書があることで疑いなく客人と思われているのか、顔を合わせた研究員達は皆どこか遠慮がちに会釈をして通り過ぎて行った。
宅配員を装ったとしても、例え研究員や守衛を装ったとしても誰に何を聞かれるか知れない。それを考えれば、ここまで自由に動けるのはやはり賓客を装った強みかと蛮の眉間が寄せられた。
しかしいくら気に食わずとも、順調に進むこと自体は願ってもない。銀次に命の危険が迫っているような気配は今のところ感じていなかったが、相手の思惑や狙いが掴めていない以上、一刻も早く奪還するに越したことはないと荒々しく息を吐いた。
「― 銀次」
自分だけに聞こえる程度に抑えた声音で呟き、拳を握る。決定的な危険はないと断言出来るものの、消耗しているところを連れ去られた以上どう扱われているか分からない。自力でもなんとかやり過ごせているはずだと信頼はしていても、力量を知っているからこそ身の安全が不安でもあった。
掌に爪が食い込み、僅かに血が滲むのを感じる。しかしそんな焦燥はいつものポーカーフェイスの下に押し隠し、蛮の目は抜け目なく施設の中を探っていた。
ガラス張りになった研究室を見る限り、二人の進んでいる付近はマスコミに報じられている通りの健全なエネルギー研究に勤しんでいるように見受けられる。自販機の周囲に屯(たむろ)して談笑を交わしている研究員達にも、またそこかしこで散見される、研究室内で睡魔との決戦を強いられている姿にも後ろ暗いところがあるようには見えなかった。
どうやらここはハズレらしいと、蛮が強かに舌打った時だった。
隣を歩いていた雪彦の手が蛮の腕を引き、物言わず制止を促す。焦りと不安から一瞬周囲に目を配ることを忘れていたことを気付かされ慌てて正面へ顔を上げると、蒼紫の瞳は引き攣りながらも息を呑んだ。
施設の外観から考えて、多く見積もっても全長の半ばまでしか来ていないはずがすぐそこには不自然な壁が行く手を遮る。先程まであれだけ目にした研究者達も今は背後の廊下を往くばかりで、この先に進もうとする人間は誰一人としていない様子だった。
ただその明らかに怪しい区画に舌なめずりをする高揚感さえ忘れ、蛮の目はたった一点のみを凝視する。
施設を分断している壁に取り付けられた、プロジェクト関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉。大人が腰を屈めて通らねばならないほど小さなそれを潜り、見慣れた漆黒が裾を揺らしていた。
女児玩具の人形を思わせるような痩身に、やけに似合った鍔の大きな帽子。そしてなにより本来の職業に反して全身に纏った闇色が指し示す人物に、蛮はぎりと奥歯を鳴らす。
「― 赤屍」
唸るように絞り出した声音に、白い面が振り返る。そして蛮と雪彦の姿を見止めると、赤屍は嬉しそうに表情を綻ばせた。
「おや。その内にお迎えが来るだろうとは思っていましたが、随分と早いお越しですね美堂君。もっとも、どうやら助言者がいたようですが……」
ちらりと動いた細い目が、顎を引いた雪彦を捉える。
「お久し振りです、弥勒雪彦君。護り屋を依頼して断られたという話は聞いていましたが、どうやらあなたのことだったようですね。友情に肩入れするのも結構ですが、そんなことでは仕事に障りが出るでしょうに」
「お久し振りですドクタージャッカル。お言葉ですが、仕事の過程が気に入らなければ途中放棄も辞さないあなたほどではないですよ」
「これは手厳しい」
悪びれることなく嗤(わら)う赤屍の姿に、蛮の目が吊り上がる。
「銀次を運んだのはテメェだな、ジャッカル」
底を這うような低音で吐かれた忌々しげな声色に、赤屍の目が僅かに開く。しかし普段からほとんど崩れることのない余裕のある態度はやはり微塵の動揺も見せることなく、むしろ次の瞬間にはさらに楽しげに口元を歪めていた。
「依頼があればそれを熟(こな)すのがプロですので。もっとも、対象が銀次君だったからというのが引き受けた理由の一つではありますがね。大事にしておきながら陽炎の如き平穏に胡坐(あぐら)をかいて、無体を強いているからこういうことになるのだと申し上げたいところですが……おかげ様で報酬として、少しばかり楽しく遊ばせて頂きました。雪彦君がもう少し早くあなたを連れてここに来ていたら仕事の邪魔者としてあなた方とも対峙出来たのに、残念です」
満足げな様子で、思い出し笑いに目を細める。それを不快そうに睨み続ける蛮の殺気にやがて静かに唇を閉ざし、赤屍は子供を諌めるような仕草で溜息を吐いた。
「そう心配なさらずとも、疲労困憊でろくに電撃も使えない銀次君の寝込みを襲うような真似はしていませんよ。私が彼を気に入っているのはあくまでも予測も出来ない動きで私の攻撃から逃れ、その上でなかなかに楽しませてくれるからです。茶番ではありましたが、一戦を交えたのは銀次君が少しばかり回復してからですよ。見縊(みくび)らないで頂きたい」
やれやれと肩を竦める赤屍の言葉に、それでも警戒は解かず唇を引き結び続ける。まるで身内を襲われた獣のような獰猛(どうもう)さに、やがて黒衣の医師は面白いことを思いついた様子で僅かに顔を上げ、そして明らかな挑発を孕んでにんまりと笑んだ。
「それとも、別の意味で銀次君の寝込みを襲えば……君はまた本気で私と戦ってくださるのでしょうかね?」
言葉が終わるのとほぼ同じく。
赤屍のすぐ傍の壁が砕け散る。コンクリート片が白い頬を掠めて緋色の筋をつけると、ひりつく痛みを楽しむように、白い手袋がそれをなぞった。
先刻の警戒など生温いほどの苛立ちと敵意に燃える瞳が射抜く視線に、深く被り直された帽子の下で唇が弧を描く。
「冗談ですよ。相変わらず気の短い方だ。むしろ私は、美堂君に感謝して頂きたいくらいなのですがね。私が銀次君を迎えに行く役から請け負わなければ、彼は五体満足でここにいることすらなかったかもしれないのですから」
「あぁ?」
「すぐに分かります。……それと美堂君。ここから先へ行くおつもりなら、その掌の爪痕はこれ以上深くしないことをお勧めしますよ。血の臭いを嗅ぎ付けて、はしゃいだカラスが寄ってこないとも限りません」
思わせ振りな言葉を紡ぎ、闇色のコートが脇を擦り抜ける。見えないはずの傷を指摘され、蛮は面白くなさそうに目をそらした。
「カラスの相手なんざ当分御免だ。それに血の臭いで獲物を嗅ぎ付ける奴なんて、カラスと鮫と、あとはテメェくらいだろうがよ。この変態ヤローが」
「おやおや、随分と酷い言われ様だ。まぁ今の君は銀次君奪還の件で頭がいっぱいなのでしょうから、これ以上はやめておきましょうか。それでは私の仕事は終わりましたので、これで。美堂君」
「あ!?」
いかにも嫌悪感を剥き出しにした応えに、白い手袋が帽子の鍔を下げる。
「くれぐれもこんなところで死んだりなさらないでくださいね?」
「……ったりめーだ」
吐き捨てた言葉にまた一つ喉を揺らし、翻(ひるがえ)る黒衣が遠ざかる。足音すらなく床を滑るように歩き去るその背中を見送り、これまで口を閉ざしていた雪彦がゆっくりと息を吐いた。
「……ふぅ。相変わらず、あの人は君達ゲットバッカーズにご執心の様子だね」
二人の遣り取りを見守っているだけでじっとりと浮かんでいた冷や汗を拭い、眼鏡を押し上げる。銀次を運んだ張本人がこの先に彼がいることを保証した以上いよいよ奪還本番かと力を込めて息を吐き切り、きっと隣人は自分以上に緊張の糸を張りつめているはずだと雪彦は蛮を見返った。
「ぶはっ!」
途端、思いがけず噴き出す。
「なにしてるの!?」
「あ?」
今からまさに赴(おもむ)こうとする扉側ではなく赤屍の去った施設入口側へと体を向け、それでも足りずに上半身を前倒しにして首を突き出す。勿論のことそれだけで済むはずもなく、頬を思い切り両横に伸ばし、口を限界まで裂いた状態で舌を出している姿がそこにあった。
衝撃で上擦った声音に、驚愕の意味が分からないとばかりに首が傾ぐ。
「なにってお前、クソ屍の野郎をバカにしてたんだよ。見りゃ分かンだろ」
「え……あぁゴメン、そこまで分からなかった……。と言うかもう背中も見えないのに……」
当然の顔をしての返答と予想外の出来事に思わず謝罪し、どう反応したものかと目を泳がせる。それを理解した上であえて知らない振りを通し、蛮はひりひりと痛む頬を軽く擦った。
「いいんだよ。あんにゃろうなら、後ろからバカにされてる気配くらい分かるだろ。せめて微妙に嫌な気分になって帰りやがれってんだ」
満足げに鼻を鳴らし、よしと呟いて今度こそ扉へと向き直る。乾いた音を立てて左手に拳を打ち付けると、先程まで悪戯小僧でしかなかった表情は狡猾な蛇を思わせる凶暴さを魅せた。
「さーて、そんじゃあいっちょ本拠地に乗り込んでやろうじゃねーか。雪ン子、足引っ張るんじゃねぇぞ」
「出来る限りね」
謙遜を鼻で笑い、扉に手をかける。錆びつき始めている蝶番が甲高い音を立てて回転すると、向こう側にもやはりこちらと変わらぬ研究室が並んでいるようだった。
慎重に扉を潜った後は、怪しまれぬように堂々とした態度で廊下を歩く。表側の仕事しかしていない人間が入った時のためだろうか、出入り口の近辺は研究内容の仔細が分からないよう、ガラス張りの研究室の中にはパソコンばかりが連なっていた。
擦れ違う研究員達の目も表とは違い、値踏みするようなねっとりとした視線を投げてくる。どうやら後ろ暗いことをやらされている自覚はあるらしいと心の中で嘲り、蛮はわざとらしいまでにへらへらと挨拶を投げてその目を躱(かわ)した。
「― 研究第一主義で口止めされてんのか、おこぼれの美味さに目が眩んで染まっちまったか。二択ってとこだな」
「だね。どちらにしろ、健全な精神とは言い難いけど」
ひそひそと口早に囁き合い、長く続いたパソコンルームの並びを抜けて徐々に大掛かりな機械の置かれた研究室付近へと差し掛かる。ガラス張りという作りのためかごちゃごちゃと見える室内は、巧妙に隠されているものの時折明らかに不穏な雰囲気を放つ機械が置かれていた。
「エネルギー研究所に拘束台とは、随分と趣味がいいな」
小さく吐き捨て、眉間に渓谷を刻む。蛮ほど顕著ではないものの、雪彦も同じく表情に嫌悪感を滲ませていた。
その鼻を、やけに香ばしい臭いがくすぐる。
香ばしいというよりも、むしろそれは焦げた肉を思わせる。その臭いに最初こそ怪訝に辺りを窺(うかが)っていたものの、なにかに気付いた様子で目を見開くと、蛮はさらに険しい表情を作った。
「……まさかここの奴ら」
「え? っ、ちょっと待って、美堂君!」
呟くとそのまま床を蹴り、その発生源へと急ぐ。追い縋る雪彦の声など聞こえないまま施設内を走り抜けると、やがて一層臭気が強い一角へと辿り着いた。
肩で息をする蛮の形相に、本来であれば部外者へ警戒を示すはずの研究員達も怖気づいて声をかけようともしない。白いコートを揺らした雪彦がやっとの思いで追いつくと、二人の耳には小さな叫び声が届くようになっていた。
遮音ガラスであるはずの嵌め込み窓を突き抜けて漏れ聞こえるほどの声量。それが指し示すものに気の重くなる見当をつけ、共に唇を噛んだ。
ゆっくりと一歩踏み出し、声と臭いの出所を前に静かに息を吐く。伏せた目線を一度苦々しく閉じ、二人は示し合わせたかのように同時に顔を上げた。
拘束台の上で手足と首を縛り付けられ、身動きの取れない状況の男。そしてその体に傍目からも紫電が散るのが見えるほどの電流を流し、断末魔の絶叫など気にも留めない様子で黙々とデータを取り続ける複数の研究員。
無限城周辺ですら滅多なことではお目にかかれないほど非人道的な光景に、蛮の指がこきりと鳴った。
「こいつら、銀次みてぇな帯電体質を創ろうとしてやがるんだ」
唸り、そこから続く研究室を険しい目で見通す。相変わらず廊下側はすべてガラス張りで徹底されているものの、中に置かれた計器の数は表側の研究室とは比べ物にならないほどに多い。そして叫びのタイミングがずれているだけで、他の研究室もまったく同じ人体実験に明け暮れているらしいという惨状にしばし言葉を失った。
やはりこの施設自体が裏の商売を本業としているらしいと嘲笑い、蛮の目元がすぅと急激に冷める。
「雪ン子」
「なんだい」
応答の短さに雪彦の怒りも汲み取り、静かに息を吐く。ポケットから取り出した愛用の煙草を咥えてゆっくりと吸い込むと、蛮は紫煙をくゆらせた。
「銀次助けたら、ここぶち壊すぞ」
断言に対して頷きだけが返る。そのままそれ以上研究室に意識を割くこともなく、二人はその場を後にした。
俯き加減に進む表情はサングラスと眼鏡の反射によって窺(うかが)えない。しかし振り撒かれる気配は決して穏やかとは言い難く、この先の立ち入りを誰かが見咎めたとしても、脆弱な一介の研究員であればその場で足が竦むほどの迫力を醸し出していた。
ガラス張りの研究室群を抜け、今度はやけに閉ざされた印象の廊下に至る。先程までありありと感じられていた、発注予定者となるだろう誰かに研究成果を見せつけるような雰囲気は微塵もない。施設の外観とこれまでの部屋の並びを考えれば確実にこの区画にも同じスペースがあるはずにも係わらず、入口すらどこにあるかも分からない壁が続いていた。
一ミリたりとも中が見えることのないようにと塗り固められたそれを流し見、なにが安置されているのかを察して口の中を噛む。
「最初に外から見えた黒い煙、多分ここからだな」
「うん。……手でも合わせておけば良かったね」
「今更言っても仕方ねぇだろ」
雪彦の後悔の言葉に居心地悪く目を泳がせ、蛮自身も抱いた同じ心情を隠して少しだけ足早にそこを過ぎる。どちらにせよこの施設自体を閉鎖に追い込めればあとは適正な対応がなされるだろうことを期待して、今は自分達の本来の目的である銀次奪還を優先させた。
腹の底に鉛が溜まるようなずっしりとした感覚。重苦しいそれに知らず眉間が寄り、解放を求めて静かに息を吐く。
脳裏に、底抜けに明るい笑顔が過(よぎ)る。いつも満面の笑顔で抱きついて来ては子供のようにはしゃいだ声を上げる姿が手元にないことが、今はたまらなく口惜しかった。
「― どこだ。銀次」
呼べど、まだ居場所ははっきりとは知れない。それこそが銀次の身体の無事を知らせている証拠と自覚していても、そんな理由では割り切れないほどにあの笑顔が渇望された。
その耳に、微かに風切音が聞こえ。
「……ッッ!!」
咄嗟に上体を反らし、床を滑る。一気に噴き出した冷や汗と前髪が目の前ではらりと散らされるのを見、蛮は思わず引き攣った口笛を鳴らした。
擦れ違い様に揺れた波打つ金の髪に、ははと乾いた笑いを落とす。
滑った勢いのままに転がって体勢を立ち直せば、長い黒のコートの向こう側で壁が斬り裂かれているのが目に入った。
「なるほど。確かにテメェがあの状態の銀次を奪いに来てたら、五体満足じゃなかったかもな」
嘯(うそぶ)き、乾く唇を舌で舐める。瘴気すら放つ背中がやがてゆらりと振り向けば、裂けているのかと思うほどの深い愉悦に歪んだ唇が覗いた。
「よォう。やけに欲を疼かせる血の臭いがすると思ったら、随分と遅いご到着じゃねぇか美堂。お前が来るまで欲を抑えるのは随分苦労したぜ」
「クソ屍の言ってやがったカラスってなぁお前かよ、不動。こんなちっぽけな傷から血の臭いが分かるなんて、いよいよ妖怪じみてきたじゃねぇか」
爪痕から血が僅かに滲んだ掌を翻(ひるがえ)して揶揄(やゆ)する蛮の隣に、同じく襲撃を躱(かわ)していた雪彦が傍付く。
「随分乱暴すぎる挨拶だけど、知り合いかい?」
「知り合いどころか、俺様の熱烈なファンってやつだ。それもかなり迷惑な類のな」
ふざけた語調でありながらも、目だけは一瞬たりとも不動から逸らすことなく注視し続ける。突然の騒ぎに気付いた研究員達が大きな声を上げながら血相を変えて逃げていくのも気に留めず、これではっきりと侵入者として見做されてしまっただろうことにも関心を示さない。ただ現在対峙しているこの眼帯の男のみに注がれる警戒心も顕わな様子に危険度を察したのか、雪彦の指先がチャクラムに触れた。
「気ぃ抜くなよ雪ン子。コイツはちぃっとばっかりアブネー奴だからな」
囁かれた声音に、歪んだ唇からひひと声が漏れる。
「疼くねェ……。テメェを見ると欲が、腕が、目が、舌が、脳髄が、心臓が、足が、俺のあらゆる場所が疼いてたまらねぇんだよ美堂よォ……!」
「しつこい男は嫌われるって知らねぇのかよ不動。大体奪い屋のテメェが、いつの間に護り屋なんぞに転向した? どこぞの雑魚(ザコ)大家族じゃあるめーし、食ってくための経営努力で職種を増やしましたーってなガラでもねぇだろうによ」
「馬鹿なことを言うじゃねぇか美堂。確かに俺は奪い屋だがよ、赤屍の野郎に自分の株を盗られたっつって大人しく帰ると思うか? あの金髪の餓鬼がここに取っ捕まるとなりゃあ、お前が奪(と)り返しに来るのが分かってんのにだ……!」
ギラギラと餓えた眼の下で、赤い舌がべろりと唇を舐めた。
「さぁどうしてやろうか。今日こそ殺させてくれよ美堂……テメェが係わるってんでこんなチンケなところで健気めかして待っててやったんだよ俺ァよォ……。まずは足か? 足を千切って俺の前に跪(ひざまず)かせてやろうか。あぁ、虫みてぇに這い蹲らせるのもいいよなァ? いや、でも床を這わせる前にテメェのそのいけすかねぇ目を弄んでやらなきゃ気がすまねぇ……。なぁおい、片目抉って、残った目にずぶずぶと押し込んでやるのは快感だろうなァ……えぇ? 美堂よォオ」
ニタニタとした趣味の悪い表情の前で、左手をぎちりと鳴らす。明らかに人体からは発せられるはずのないその金属質な音と、なによりも蛮を見るその目の異常さに、眼鏡の奥の眉間が困った風に寄せられた。
「確かにアブなそうな人だ。君達は二人とも、よくよく変な人に好かれる傾向があるらしいね」
「テメーが言うな。お前、ビーナスの腕の時に銀次の関節全部外したろ。アレでお前もアイツの中じゃ、ちょっとヤバい人間にカウントされてんだ」
「本当? 心外だな。あとで銀次君に弁解しておかないと」
「ハッ。コッチ側の人間でアブなくねー奴がいるってんなら、お目にかかってみてぇもんだけどな」
自分を話題にしながらも交わされる軽口に不動の口元が引き攣り、痙攣するようにひくりと動く。嫌悪感を曝した醜悪な唇の奥でガチガチと歯が鳴ると、垂らされた長い前髪がゆらりと左右に振られた。
「ナニ俺をほったらかしで楽しくお喋りなんてしてやがんだよ美堂ォ……。今のテメェが見なきゃいけねぇのは! 俺だろうがよォオ!!」
怒号とともに、左腕を振り上げた不動が蛮に向かって突進する。服から覗き見える鋭い煌めきが確実に蛮の首を狙っていることを読み切り、二人は惑うことなく床を蹴って上へと逃れた。
「……あの腕、厄介だな」
眼鏡を押し上げ、雪彦の指先がチャクラムを投擲(とうてき)する。激しい回転音を響かせて弧を描くそれが嘲笑で見開いた眼を捉えたかと思いきや、円刀はするりとそれを突き抜けて雪彦の元へ戻る軌道へと入った。
「っ、残像……!」
侮っていたわけでもないが、予想以上の移動速度に咄嗟の反応が遅れ、一瞬の動揺が雪彦を襲う。不動の動きを見失ったことで動転し、冷静さを欠いた状態で辺りを見回したその視界の端に金糸が舞った。
「あの金髪がいなけりゃあ、やァっと美堂が俺を見るかと思ったんだがなぁ……。なんでこいつの周りにはこうも邪魔な奴らがワラワラと群れてンのかねェ」
世界が静寂と空白に飲まれたかのような錯覚。背後を取られていた不覚に冷や汗が噴き出し、雪彦の指がもう一枚チャクラムを投げた時だった。
「ワン・セコンド」
不動の左目が獣のような眼光で雪彦を射抜き、にたりと裂けるほどの笑みを浮かべる。円刀を投げると同時に右側へ飛んだはずの眼前には、そこへの移動が分かっていたかのように当然のごとく狂気の表情が待ち構えていた。
「な……ッ!」
「考えが浅いんだよ、餓鬼」
顎のすぐ下で、血に飢えた白刃が輝きを魅せる。そこに映る自身の顔さえはっきりと視認出来る事実に、雪彦は思わず歯を食い縛った。
「蛇(スネーク)、咬(バイト)ォ!!」
不動の左腕が細い顎を斬り割る直前、咆哮が壁を震わせる。指間を限界まで広げた状態で掴みかかろうとするその凶暴さを正しく身を以て知る不動の目は、それを見止めるや否や即座に雪彦を突き飛ばし、床を蹴って後ろへと飛んだ。
「美堂ォオオ!!」
歓喜か憤怒か。どちらにしろ昂ぶりに任せて叫ばれる名前に舌打ちのみを返し、目線もくれずに叱責する。
「ボサッとしてんじゃねぇぞ雪ン子!」
「ごめん、助かった!」
「謝るくれーなら本気出せ、本気!!」
「言われなくても……!」
戻ってきたチャクラムを加えて四枚投げ、未だ楽しげに高らかな叫びを続ける不動を上下と前後の四方から襲う。
多少破壊されているとは言っても横幅の限られた廊下ではそれだけでも充分動きを封じられると踏んでの軌道だった。
しかしそれすら、硬質な左腕のギミックに阻まれ斬り開かれる。
「ツー・セコンド!!」
振り翳(かざ)された刀身を、交差したチャクラムで辛くも防ぐ。綺(あや)の太刀として極限まで鍛えられた玉鋼が目の前で零れていく様を信じられないものを見る目で見つめながら、雪彦は馬鹿なと小さく漏らした。
その呟きが終わる頃、鮮血が散る。
「― っっ!?」
驚愕に見開く雪彦の目の前で、快楽に浮かされた嗤い声が迸(ほとばし)る。ゆっくりと首を廻らせて噴き出す血の源流を見れば、完全に防いだとばかり思っていた刃の切っ先が深々と肩に突き刺さっていた。
「邪魔なんだよ、テメェは!」
「雪ン子!!」
冷徹に吐き捨てられる言葉を伴った刃が肩を裂き、再度翻るより早く、蛮の手が雪彦の襟首を掴んで後ろへ投げる。反動で前へ押し出される形となった蛮の首に狂乱の表情を見せる不動に忌々しげに唾を吐き捨てると、ギリギリのところで体を反らし、切っ先を避けた。
ただ、風を孕んで膨らんだ衣服だけが取り残されて切り刻まれる。
「男剥いても楽しかねぇだろオッサン!」
「楽しいさ! テメェの骨まで削げりゃあな!!」
「ふざけろ馬ァ鹿! そういうのはフライドチキンでやってろや!!」
罵倒を吐きかけながら素手で刃を弾き、後方を確認して飛び下がる。一対一での対峙では距離を取ることすら難しいが、手負いとはいえ雪彦がいることで多少は思った通りに動くことが出来ると汗を拭った。
一歩で詰めるにはあまりに遠いその警戒ぶりに、不動は菓子を取り上げられた子供のような表情を浮かべる。
「逃げるなよ美堂ォ。俺の左腕が、お前ともっと遊びてぇと駄々を捏ねて疼きやがるんだ。愉(たの)しませてくれなきゃ困るんだがなぁ」
「へっ、そんな厄介なモンの子守り仕事なんざ受けた覚えは皆目ねぇがな。そろそろダダ漏れな欲を制御出来なきゃダセェ歳じゃねぇのかよ」
「そんなことしてなんの得があるってんだ? 欲があってこその人間じゃねぇか」
「ケダモノの言い分だな。いっそ卑弥呼から退化香でも貰ってきやがれ」
禅問答にも似た遣り取りを交わしながら、互いに隙を窺ってじりじりと位置を変える。
初動の気配を探りながらも決して視線を合わせることなく眼球を動かし続ける不動に舌打ち、静かに深く息を吐く。腕を失って以降、見(まみ)えるたびに邪眼への対策を講じてくるこの男の妄執を、今回はどうやって切り抜けたものかと思考を廻らせた。
思惑を察し、呵々(かか)と嘲笑が響く。
「足掻くなよ美堂ォ。サトリの力で俺にはお前の動きの先が分かる。邪眼は使わせねぇし、スピードは同等。今回は足手纏いこそいるが、無限城の時みてぇに助けてくれる仲間もいねぇ。こりゃあもういい加減年貢の納め時ってやつだぜ美堂。切り刻んで肉を削いで、それでも生かしといてやるからよォ、至極の絶叫で酔わせてくれや」
恍惚として言葉を紡ぐ不動に、相応しい反論も見当たらず顔を顰(しか)める。しかし背後でふらつきながらも立ち上がった気配を察すると、蛮は短く息を吐いて肩の力を抜いた。
「肩は」
問いに、赤で汚れた白いコートが揺らめく。
「落とされない限りは動くよ。それより、サトリと言っていたね。それは僕らの考えがあちらに筒抜けってこと?」
流血が収まった肩を押さえて並び立った雪彦に、蛮は短く否定の言葉を返した。
「いや、そこまで根本的な能力じゃねぇよ。ただアイツの左目は、見た相手の三秒後の未来までを知ることが出来る。どっちにしろ厄介なことに変わりねェ」
「三秒……。そう。それで僕の動きの先を見切られていたわけか」
俯き気味に眼鏡を押し上げ、一歩前へと進み出る。
「行ってくれ美堂君。この騒ぎで、銀次君の居場所を変えられるかもしれない。そうなったら次を探すのはなかなか面倒だ」
紡がれた言葉の意味を一瞬理解出来ず、蛮の目が瞬く。しかし自分を先に行かせるという言葉の意味に気付くと、理解し難い驚愕で声を荒げた。
「はぁ!? てめえ一人に不動を任せろってか!?」
「動きの先を読まれる理由は分かったんだ。思考を読まれるわけじゃないならいくらでも対処の方法はあるよ。それに君も銀次君も、何度かこの人と対峙した過去を経てこうして生きてるんだろ? だったら、僕にだって出来ない道理はない。こんなところで倒れるようじゃ、いつか兄さん達と再会した時に顔向け出来ないだろ?」
言い切った声色は、強がりでない柔らかさで笑む。それをしばし呆然と見つめると、蛮はやがて諦めたように噴き出して頭を掻いた。
「確かに、銀次を移されちゃあたまらねぇ。考えてみりゃあそいつはお前んとこの三男坊に似てる様な気もするし、お前に任せるのが得策かもしれねぇな」
「三男坊って。……反論させてもらえるなら、右狂兄さんはあそこまでじゃなかったよ」
「まぁ気にすんな。俺から見りゃあ似たようなモンだ」
茶化し言葉で緊張を霧散させ、ゆっくりと息を吐く。面白くない展開にまた歯噛みする不動を流し見、蛮はその場で二度飛び跳ねた。
「そんじゃ、きっちりぶっ倒して来いよ。あんまり遅いと置いてくからな」
「気を付けるよ。銀次君をよろしく」
「ハッ、誰に言ってやがんだ……よっ!」
床を蹴って壁を駆け上がり、不動の頭上を越える。
「逃がすと思ってんのかよォ、美堂ォオオオオオ!!」
「それはこっちのセリフだよ!」
蛮を睨みながら雄叫び、越えていくその脚を斬りつけようとした不動の肩をチャクラムが掠め斬る。その痛みに思わず手を引いた不動が、怒りに血走った目で雪彦を見返った。
無事に追撃を躱(かわ)し、蛮は振り返ることもせず走り去る。遠ざかっていく足音を肩越しに見送り、不動は奥歯からぎりりと軋んだ音を響かせた。
「てめぇ……」
「生憎(あいにく)と美堂君は忙しい身なので、あなたの相手は僕が請け負います。先読みされる理由が分からず不覚を取りましたが、それさえ分かればもう怖くはない」
「舐めたことを言ってんじゃ……!」
左目が怪しげな輝きを見せる前に、チャクラムがその顔面を狙って襲い掛かる。さすがに激しい回転で風切音を鳴らす複数の円刀を見ずに躱すような芸当は難しいのか、不動の目は雪彦から逸らされた。
隙を突き、懐に飛び込んで左手を斬りつける。
「― ッ!!」
硬質な音とともに火花が散り、互いに跳び退く。義手との境界を狙ったもののすんでのところで僅かにずらされた事実に、やはりサトリの能力に頼らずとも相当の実力を持っているらしいと唾を飲み下した。
戻ってきたチャクラムを回転させたまま指先に捉え、低く身構える。
「弥勒一族の名にこんなところで泥をつけるわけにはいかない。最強の弥勒と謳われた我が実力、とくとその身で御覧(ごろう)じろ」
冷たい声音が白い壁に反響する。忌々しげに唸る不動に向けてチャクラムを放つと、さてどの程度まで通用するかと細く息を吐いた。