――― 往く逝く黄泉路の騒動記



   壱  黄泉比良坂


 目を覚ましたそこは、ひどく暗い山中だった。
 朔の日なのか月もない。それどころかよく見れば星明りすらなく、なぜか手元にある蝋燭の明かりだけがほのかに周囲を照らし出していた。
 風もないのか葉掠れの音もなく、耳が痛くなるほどの静けさだ。改めて周囲を見回しても民家や集落の明かりすら見えることもなくただ暗闇ばかりが広がっている。
 立っているのは険しい山へと続く、坂の上り口だった。
「……えぇっと」
 逡巡する。なにがどうなってこの場に立っているのか記憶がはっきりとしないが、とにかく前に進まなければいけないらしいことは理解できる。
 めがねを押し上げ、乱太郎は困惑のまま一歩踏み出した。
 途端、今まで立っていた地面は音もなく闇に飲まれる。それをぼんやりとした気持ちで眺める中で、乱太郎はやっと、自分以外の発する音を聞いた。
 ざかざかと、それは大きな熊――いや、音の重量を考えればそれ以上かもしれない。とにかく巨大な生き物が砂利を蹴散らしながらこちらに向かってくる音を聞き、乱太郎はようやく正気に立ち戻って青褪めた。
 砂利を蹴りつけるその音は草食動物の発するそれとは違い、獰猛さすら感じさせる太い足を連想させる。しかも一匹ではなく、恐らく二匹だろう。
 この暗闇に他に獲物になりそうなものが存在するとは考え難く、だとしたら標的は確実に自分だろうと結論付けるのは当然のことだった。
 かと言って逃げ場などない。後ろに逃げたくても道はなく、左右は木が生い茂っているため隠れ場所には困らないはずだが、なぜかこの道から動いてはいけないと言うように、足がそちらへ踏み出そうとはしなかった。
 打開策を練る間に、足音は間近に迫る。そしてついにその音がゆっくりとした足取りに変わった時、乱太郎は自分のすぐ近くから吐き出される生温く、少し生臭い吐息を感じた。
 ハッハッと忙しない息遣いに、目をきつく閉じ、唇を噛んで堪える。しかしいくら気配を殺そうと努めたところで蝋燭を手にしている上に相手は動物だ。においですでに気付かれ、今は値踏みをされている状況のはずだとごくりと唾液を飲み下す。
 意を決し、震える手で火をかざす。恐る恐る開いた目の前には、人ひとり口に放り込めてしまいそうなほどの巨大な犬が二匹も迫っていた。
「――っっ!?」
 驚きのあまり声も出ない。目を開いた乱太郎にことさら興味を惹かれたのか、二匹はさらに大きな鼻を寄せてにおいを確かめ始めた。
 ぺっちょりと濡れた鼻先が肌に降れる冷たさに、恐ろしさ以上に何だかくすぐったくなって引き攣りながらも顔が綻ぶ。それを目にし、犬達はぎょろりと目を動かした。
 どこにでもいる柴犬が巨大化したような姿だが、ただ一つ決定的に違う個所がある。それは、普通の柴犬であれば白く色素が抜けて眉に見える場所……つまり本来の目の上にも、もう一対の目が存在していることだった。
 消える山道に、星明りのない空、そして巨大で四つ目の犬。ここまで現実離れしてくると、もはや自分の立っている場所が現世でないことくらいは理解できる。
 乱太郎は静かに息を吐き、あぁと暗い空を仰いだ。
「……そうか。私、死んじゃったんだ」
 ぼそりと呟き、肩の力を抜く。痛みを感じた記憶はない。恐らく眠ったまま息を引き取ったのだろう。
 別離の言葉も、これまでの感謝も伝えられなかった事実に、出会った頃のまま気の強い一つ年上の伴侶はどれほど悲しんだろうと後悔が胸をよぎる。
「――ごめんね、ユキちゃん」
 呟いた名前に二匹の耳が動き、顔を見合わせたかと思うと頷き合う。まるで人のような仕草を見せた後、一匹の犬が乱太郎の襟元を咥え、軽々と持ち上げた。
「へっ!? わ、わっ!?」
 慌てて、思わず手足をばたつかせる。着物が裂ける音が聞こえたが、このまま食べられるよりは着物の一枚くらい気にもならないと構わず暴れ続けた。
 しかし程なくもう一匹の犬の鼻先に押し上げられ、それもままならない。
 もはや食われる以外ないかと大きく溜め息を吐いた時、犬の目がひどく困り果てたように力なく垂れていることに気が付いた。
 暴れる気力も削がれてパチパチと瞬けば、犬は縋るような声色でくぅんと小さく鳴いてみせる。
「……あれ? もしかして、私になにか助けてもらいたいの? って、おわぁ!?」
 問いを聞くや否や、犬達は乱太郎を咥えたまま山道を駆け上がっていく。その速度を例えるならば、高い崖から飛び降りた時のようなそれだ。
 向かってくる風が強すぎて、うまく目も開けていられない。しかし痛いほどの風を全身に受けながらも暗闇の先になにがあるのかを期待し、高鳴る胸を自覚しないわけにはいかなかった。
 やがて、わいわいと賑やかな談笑が風の音に混じり始める。だんだんと近付くその声は、どこか聞き覚えのある雰囲気で乱太郎の心を揺らした。
「まさか」
 小さい、本当に小さな言葉が漏れ落ちる。
 もう走るほどの距離ではないのか、乱太郎を咥えた二匹はゆっくりと山道を歩き始めた。そのためによりはっきりと聞こえる言葉や声に、手や唇がわななく。

―― 連れてきたよ。この人で最後でしょ?

 突然、寄り添っていた犬がヒトの言葉でそう告げる。さすがに予想外の事態に目を見開いて見返った乱太郎は、しかし満足に驚きの声を上げることも出来ず、その場にぼとりと落とされた。
「いったぁ!!」
 地面で顎を打ち、転がって悲鳴を上げる。不運中の幸運か舌を噛むことはなかったが、それでも痛いものに変わりはないと涙目で座り直し、顔を汚す土を拭った。
 乱暴だなと文句を口にしたその目に、見覚えのある背中がいくつも映る。
 あの場所を卒業して久しい今、着ているはずもない井桁模様の忍装束。小さなままの体躯。信じられない光景に乱太郎は言葉をなくした。
 それを気にも留めず、目の前では楽しげに小さな影が跳ねる。
「なんだ、急にいなくなったと思ったら乱太郎を連れて来てくれたんだー! サーラメーヤはいい子達だねー! ご褒美にほっぺたとお腹モフったげる! モフモフ! モフモフ!!」
「あ、三治郎ずるい! んじゃ俺は耳の後ろー!」
 キャイキャイとはしゃぐ声と混ざり聞こえた名前に、それが誰であるかを確信して乱太郎の視界が滲む。座り込んだまま胸元を握り締めてその光景を眺める眼前に、懐かしい二つの手が差し伸べられた。
「いつまで座ってんだよ、乱太郎」
「ホントに久し振りだよねー。ねぇ、いーっぱいおいしいもの食べたぁ?」
 いたずらじみた声色と気の強そうな吊り目、そしてふっくらと肉厚な手の平と、わずかに間延びした特徴的な口調。
 先に逝ってしまったはずの親友達が、出会った頃の姿で目の前にいる現実に、乱太郎は成す術もなく表情が崩れていくのを感じた。
 短く息を吸い込んだまま唇を噛み締め、込み上げる感情を抑えようと身を震わせる。もしここが既に地獄なのだとしたら、この仲間達は幻なのかもしれない。懐かしさに駆け寄った瞬間、油が熱く煮えたぎる鍋に落ちてしまうのかもしれない。しかしそんな想定の上の努力も、懐かしい十人が顔を揃えて覗き込めばあっという間に瓦解した。
 声もなく――
 乱太郎は倒れるようにきり丸、しんべヱを始めとした一年は組の面々に抱き付く。
 それを優しく受け止め、全員がケラケラと笑い声を上げた。
「ははっ、やっぱ乱太郎もこうなったなー」
「そりゃそうだよ。僕だってきり丸に会えたとき、ワンワン泣いちゃったもん」
「まさかこんなところで会えるなんて思わないからね。そりゃ誰だって驚くよ」
「その割に庄左ヱ門は冷静にツッコミしてたけどな……」
 きり丸、しんべヱに続いて庄左ヱ門と団蔵の声も鼓膜を揺らす。腕の中の感触は消えることなく、また、熱い油の気配も鋭い針の気配もないことに乱太郎は顔を上げて涙をぬぐった。
 改めて向き直り、へへと照れ笑いを漏らす。
「ごめんね。最初みんなのこと、鬼かなにかが見せる幻だと思って疑っちゃったや」
 言葉に、また虎若と兵太夫が同意を見せる。
「あー、俺もそれ思ったー」
「そうそう。でもみんなの顔が見れたし、もうここが地獄でもいいやーって」
 だよねぇと笑い合い、はたと我に返る。
「……ねぇ、でもなんでみんな一年生の時の姿なの? みんながその……死んだのって、さ。大人になってからだよね?」
 ここがあの世だとは言ってもやはり死に関することを話題にするのは気が引けるのか、少々窺う声色で問いかける。しかしその質問すら予測済みだったのか、きり丸がにやりと唇を吊り上げた。
「そういうお前も、自分のカッコ見てみろよ」
「へ?」
 言われ、ようやく体を見下ろす。
 蝋燭のか細い光に照らされるその体は小さく、生前よりも確かに地面を近く感じる。それどころかやはり井桁模様の忍装束を着込んでおり、慌てて頭に触れれば頭巾までもしっかりと巻きつけていた。
「え、えぇえええ!? なにこれ!? どうなってんの!?」
「わかんなーい。でも、最初にきり丸がここに来たときは白装束だったんだって。でも虎若が会った時にはもうこの姿だったらしいよ。それから、僕と金吾が来たときも気が付いたら小さくなっててねぇ」
 ヘラヘラと笑いながらの喜三太の言葉に、ならば考えるだけ無駄なのだろうかと頬を掻く。しかしここはまだ険しい山道の途中だ。その上乱太郎が持つ蝋燭以外の光源もない。再会は喜ばしいものの、なぜこんな場所でたむろっているのだろうと頭を捻った。
「あー……みんなと会えたのは嬉しいんだけどさ。場所、どうにかしない?」
 そう切り出すと、背後から疲れたような溜め息が聞こえた。

―― そうだよ、そろそろ逝ってよ。全員揃うまで待ってあげたじゃない。
―― でなきゃいい加減、僕らがお小言聞かされちゃうよ。

 困惑した声音に、そういえば巨大な犬がいたのだったと振り返る。
 しかし返り見れば、三治郎に腹を、そして虎若に耳の後ろを全力で撫でられながら転がっている犬達がいた。

―― もうやーめーてーよー。ナデナデしないで―!
―― なんで君達、僕らのこと怖がんないのさー! もー!

 文句を言いながらも、その口調はどこか幸せそうだ。
「きり丸がさ」
 思いのほか平和な光景を目にして乱太郎が言葉を探している間に、横から金吾が肩を竦める。
「この坂を上ってるうちに、ふと気付いたんだって。一歩進むと後ろの道は消えていく。でも……ほら、きり丸が死んだのは戦でだったからさ。他にも死んだ人はいっぱいいたんだって。で、自分の後ろに道はなくなってるはずなのに、後ろから人は上がってきてる。だからもしかしたら、戻るのは無理でもここで居座るのはアリなんじゃないかって」
「それでホントに居座っちゃってねー。死者が順調に進んでくれないと困るってんで、そこのサーラメーヤって二匹のわんこが怒りに来たんだよ。けどきり丸って、伐天坊のところの厘賃々に対してもそうだったけど、やたらと犬の扱いウマいじゃない。それで、は組の仲間全員が揃うまでは動かないってほだしちゃってねー。この状況ってわけ」
 金吾の後を引き継ぎ、兵太夫が乱太郎の背後から圧し掛かる。懐かしいじゃれ方に声を上げて笑うと、コラコラと諌める声が聞こえた。
「乱太郎は僕らと違って死にたてなんだから、あんまり疲れさせるなよ。僕らは今まで休憩していたようなもんだけど、この坂、これからまた登っていかなきゃならないんだから」
 伊助に襟首を持ち上げられ、兵太夫が引き離される。まるで猫の子の扱いだと頬を膨らませたカラクリ技師に、犬を撫で続けていた虎若からそんな可愛いもんだったかとヤジが飛んだ。
 その声に、兵太夫はにっこりと振り返る。
「三ちゃ―ん。僕の代わりに虎若一発殴っといて―」
「了解―! 食らえ虎若、兵ちゃんはかわカッコいいんだぞパーンチ!」
「いたっ、痛いっ! 声とネーミングに見合ってないんだけどそれイッタイ!!」
 キャイキャイとはしゃぐその雰囲気は紛れもなくあの学園で六年間を共にしたは組のものであり、もはや幻かなどと疑う余地もない。死んだというのに、そしておそらくこれから本当の死後を体験していくだろうことは容易に想像ができるのに、なぜかこの面々とまた時を同じくしているというだけで楽観的なまでの安心感が胸を占めていた。
 再会に頬を緩める乱太郎達の興奮もやがて一息をついた頃、ようやく解放されたサーラメーヤ達が疲れ果てた表情でのっそりと体を起こし、撫でまわされた毛並みを直すように体を振るった。

―― さぁ、じゃあもうそろそろ逝こうよ。僕らが秦広王様のところまで送ってあげるから
―― ホントはこれも駄目なんだけどね。ちょっとでも早くいかなきゃ申し訳ないよ

 言うが早いか、乗れとばかりにぺったりと伏せる。その姿にきらと目を輝かせ、元一年は組の面々は我先に、二手に分かれて犬の背に跨った。
 最後の一人が乗り、しっかりと毛を握り締めている僅かな痛みを感じると、サーラメーヤはすっくと立ち上がって坂を見上げた。
 そして次の瞬間、暗い景色が飛ぶように流れていく。
「うっひょおおおお! はえー!!」
「落ちるなよーみんなー!」
 それぞれにはしゃいだ声を上げ、傾斜のきつい坂を駆け上っていく爽快感に笑みをこぼす。旧友たちと再会できた喜びと思わぬ幸運に、死後は生前の不運が反転するのだろうかと期待に胸ふくらませる乱太郎をきり丸としんべヱが覗きこんだ。
「でもこっちに来て早々、自力で坂も上らなくて済んだなんてラッキーだよな」
「ホントほんとー! 乱太郎なら、一回登ったのに転がり落ちちゃうくらいの不運はあるかなーと思ってたー」
「ちょっとしんべヱ、それはいくらなんでも言い過ぎ!」
 冗談めかしてケラケラと笑い、幸福に表情を綻ばせる。しかしそんな三人の様子を見返り、前方の庄左ヱ門が眉を八の字に垂れさせた。
「乱太郎、それなんだけどね。前に聞いた三治郎の話を考えると、もしかしたらこの幸運こそが乱太郎の不運なのかもしれないよ」
「庄左ヱ門までやだなー、私が幸運だなんてー。……って、え?」
 言葉に、笑顔も凍りつきひくりと唇が引き攣る。改めて庄左ヱ門へ向き直れば、未だ級長然とした凛々しい大きな目は、既に隣を走る犬の背に跨った三治郎へと向けられていた。
 吹き抜ける風に掻き消されないようにと、張り上げられた大きな声が闇に響く。
「三治郎―! この坂、ホントは七日間かけて登らなきゃいけないから、早く着いちゃダメなんだよねー!?」
「そうー! 七日経ったら最初の裁判所に陳情書が届いてるはずだから、裁判がちょっとだけ有利に進むのー! でも乱太郎の場合はもうどうしようもないかなー!」
 聞こえた返答に、乱太郎の表情がさらに引き攣る。
「え……ってことは私一人、先に地獄行きになっちゃうかもしれないってこと……?」
 震えた声色に、いやいやときり丸としんべヱが慌てて肩を抱いた。
「大丈夫だって! お前はどこにいたって怪我してる人がいたら治療してたようなイイ奴だし! 神様ならそういうところも、ちゃーんと考えてくれるって!」
「そうだよ、乱太郎は地獄行きになんてならないよ! もしそうなったりしたら、僕、神様に抗議してあげる!」
「二人とも……。うん、ありがとうね」
 必死のフォローに勇気づけられ、照れた笑みを返す。するとその時、隣の犬の背からも大丈夫だよという声が投げられた。
 見れば、三治郎と喜三太がニコニコと手を振っている。
「最初の神様はねー、みんなの罪をご覧になるだけだから心配しなくても大丈夫―! 速攻で地獄行きになんてならないよー!」
「それにこれから先も乱太郎だけ陳述書が届いてないと思うけど、僕達みんな乱太郎がしてきたいいことは知ってるからー! ユキちゃんに代わって直接言うよー!」
 大丈夫大丈夫と気楽に笑い飛ばしてはいるが、学園を出てからは基本的に山伏として生涯を全うした三治郎と、その真逆で生涯は忍者であったものの山伏としての修行もしていた喜三太の言葉だけに安心感が増す。
 どちらにしろ陳述書のあるなしに関わらず最初の裁きは受けねばならないのだと開き直り、大きく息を吸い込んだ。
「あ、あれかな! でっかい門!!」
 団蔵の声に、全員の視線が前へと向けられる。
 坂の上、道幅に見合わぬほどの大きな門が威圧感を持って佇んでいる。ごくりと唾液を嚥下すると次の瞬間にそれは眼前に迫り、サーラメーヤは揃って足を止めた。
 頭を垂れた二匹の上をするりと滑り、十一人で門前に立つ。
 軋んだ音を立てて開かれる巨大な門に、誰もがびくりと肩を震わせたかに見えた。
 しかし、しんべヱだけがふふと嬉しそうに眉根を垂れる。
「この音、なんだか忍術学園の門の音に似てるね」
 その言葉に、呆気に取られると同時に緊張感が解けていくのを全員が感じた。
 しばらく、言葉を忘れてしんべヱに視線が注がれる。そんな中、ハッと噴き出すような、溜め息のような声が漏れ、きり丸が自然と姿勢を崩した。
「……お前ってさぁ」
 呆れるような声音と裏腹に、その表情はあの頃の日常のように穏やかだ。それを見て、乱太郎も自然と肩から力が抜けた。
「うん、やっぱりしんべヱってすごいよね」
 ちらと中央に立つ庄左ヱ門を見れば、その表情もにこやかにほぐれている。懐かしいあの学園の門ですら、入学時の自分達にとっては得体の知れない威圧感を放って見えたことを思い出し、知らぬ間にくすくすと含み笑いが漏れていた。
 そしてまた息を合わせ、全員で一歩踏み出す。
「せーのっ、こんにちはー!」
 まるで知人の家を訪ねるような気安い挨拶に、奥の車寄せに立っていた鬼達がずるりと体勢を崩す。しかしそれを笑うことも、慌てて謝ることもせず、元一年は組の十一人はただニコニコと第一裁判所――「秦広庁」へと至った。



−−−続.