カエンタケ城から場所は変わり、領内にある仮の住まい。
 亥の刻を過ぎてから、灯心の火に照らされた横顔は情けなさも極まった様子で俯いていた。
 繋がった眉は端に行くにつれて情けなく垂れている。溜まりきった涙が万一にも零れ落ちぬようにか、唇は真一文字に引き結ばれて僅かにふるふると戦慄いていた。
 その姿だけを見るならば、とても風魔忍者を統率する現当主とは思えない。
 むしろ体躯こそどうにか大きくなったものの、その本質は忍術学園で教師達に大目玉を食らっていた頃と一切変わってなどいないのだと、より一層認識を強めさせた。
 無論その子供じみた喜三太の眼前に腕を組んで座し、鬼もかくやという形相で説教を垂れているのは与四郎、金吾、そして庄左ヱ門の三人だった。
「でーてーオメーは、いつまで経っても自覚ってぇモンを持ちゃーしねーからこったらジテーになっちまうんだーよ! 仁之進はすったらかしてばっさまに知らせを持ってったけどもヨ、けーったらこんなもんじゃねーくれーうんならかされっのは覚悟しとけ」
「今回ばかりは僕もお前を庇ってやれないからな。前々から甘すぎるって怒られてたくらいなんだから、泣いてでもいいからちゃんと叱られてこないと、今後の風魔にも影響してくるだろ。お供もつけずに若頭領がフラフラ出歩いてたら拉致されて騒ぎになったなんて、風魔の子どもらには恥ずかしくて聞かせられやしない」
「元々喜三太は奔放な性格ではあるけどね、あと数年はそれをどうにか誤魔化していかなきゃいけない時期なんだから。周囲の城や領主達に、風魔は付け込みやすいと思われたらたまったもんじゃないだろうし、喜三太だって本意じゃないだろう? 今は多少無理をしてでも、強固な風魔の頭領を演出しておかなきゃ。喜三太が現役の内かは分からないけど、次の世代の子達にとんでもない負債が降りかかることになりかねないよ」
 まさに代わる代わる、次から次へと説教ばかりが降り注ぐ。
 今回の発端に関わる部分なだけにその言葉の針を誰も止めることが出来ず、ただ遠巻きに覗き見る。
 元来説教が苦手な面々は、渦中に座していることがどれだけ辛いかを我が身に置き換えて想像してはひたすらに額を青褪めさせていた。
「針のムシロって感じ……」
「三方向から怒られちゃ、マジで逃げ場ないよなぁ……」
「自分が悪かったのが分かってるだけに、これはちょっとキッツいよねぇ……」
 伊助、虎若、しんべヱがヒソヒソと同情の言葉を囁きつつ、せめてあの説教が早く終わることを心中で祈る。しかしその祈りも今は仏に届かないのか、じわじわと責め立てる声が息をつく様子は見られなかった。
 あれではさすがに煮詰まってしまうと思いながらも、お家騒動にも近しい今回の件に、容易に首を突っ込んでいけるわけもない。
 それを憐れに思いながら乱太郎が視線を逸らした先で、三治郎の指が苛立たしげに自らの肘を叩き続けているのが目に入った。
 これもまた別意味で触れてはいけない雰囲気だと誰もが感じながら、それでもこちらに関しては声を掛けずにはいられまいときり丸がそろりと手を伸ばす。
「……なぁ、さんじろ……」
「浮気だよね、コレ」
 言葉が終わらぬうちに地を這った声色に、ひくりと周囲の空気が引き攣る。
 その目は燃えるような熱さを孕む視線で一か所を睨み据え、逸らすことなく恨みがましさを訴えていた。
「いや……浮気ってことにはならねーんじゃ……」
「え? 浮気ですよね?」
 しどろもどろに反対してみたものの、満面の笑顔に殺意を込めて見返されては言葉も出ない。思わず怯えて引き下がったきり丸は、団蔵と乱太郎を盾にして身を隠した。
 半面、隠れ蓑にされた二人はまぁまぁと落ち着けにかかる。
「三治郎、気持ちはまぁ分からなくもないけど……兵太夫の子供好きは今に始まったことじゃないんだし……」
「あんだけお前に執着しまくってる奴が、よりによってあんなちっちゃいを相手に浮気だとかそんなことあるわけ……」
「兵太夫は! ちっちゃくて可愛いものが大好きなんです!!」
 団蔵の主張に対しきっぱりと言い放ち、今度こそ勘弁ならない面持ちで腰を上げる。
 その先にはだらしなく緩みきった表情を隠しもせず、まさに脳内に咲き乱れた花畑を堪能していると思しき有様の兵太夫が、惚けた様子で身を揺らしていた。
 ついにこちらにも居た堪れない空気が流れ始めるのかと、渦中にない面々はごくりと唾を飲む。
「兵太夫、ちょっといい」
 かける声さえ、もはや地獄の獄卒然とした底暗いものを感じさせる。
 しかし当の兵太夫はと言えばその声に弾かれるように正気に戻り、三治郎の顔を見るや否やぱぁと花開くように表情を華やがせた。
「三ちゃん!」
「へ?」
 無論三治郎は予期しないその反応に、思わず反応が遅れる。
「ねぇ三ちゃん、聞いた? 聞いた!? あの子、うちに来るんだって! うちに来るんだって、うちに! すごくない!? ねぇ、すごいよね! だって城の若様だよ! 虎若だって鉄砲隊の若様だし、喜三太だって転校当初はそんな噂が立ったりもしたけど、ホントの、若様! そんな子がさ、僕の授業受けたいって! 僕の授業なら受けていたいって言ってくれたんだよ! ねぇ、すごいよね!? 今晩出立の準備を済ませたら一緒に畿内に出向いて学園長先生に事情を話してさ。さくさくっと編入手続きも終わらせて、そしたらこれからはあの子がホントに僕の……! 僕の生徒に、なるんだよ!」
 キラキラと輝かんばかりの顔が、畳みかけるように言葉を紡ぐ。その勢いとあまりに邪気や下心のない様子に呆気に取られ、三治郎はもちろん周囲も、そして激しい説教の最中にあった喜三太達すらもしばらく言葉をなくして兵太夫へと視線を注いだ。
 期待に輝く表情は、その間も曇ることなく興奮気味に大きく呼吸を繰り返す。
 その様子に、やがて喜三太の正面の影が噴出した。
「ぶはっ」
 その声を耳にし、また全員の注意がそちらへと集中する。
 おかしそうに破顔したのは、喜三太を叱りつけていたはずの与四郎だった。
「あんな小さな子に教師として指名されたら、そりゃあ嬉しいですもんね、笹山先生」
「そう、そうなんです! 錫高野先生!!」
 突然の訛りのない言葉遣いに一切動揺することなく、兵太夫は興奮状態のまま、忍術学園の同僚への対応に切り替わる。
 その姿にようやくあの惚けが子供好きの極みや、まして恋慕によるようなそれではなく、教師として至高の喜びに立っていたためだったと理解が出来た。
 勘違いに気付いた三治郎が羞恥と後悔に赤面するも、やはりそんなことは目にも留めない様子で学園教師となったカラクリ技師はその手を握る。
「ねぇ三ちゃん、僕ね、あの子を絶対悪い殿様になんてしないんだ! 無駄に戦をしたり、されたり、まして領民をいじめたりするような悪い殿様なんかじゃなくってね! 人を破らざるの習いを守っていろんな人と和をなしてほしい! 忍の業と知識でもっていろんな予兆を感じ取れる、お侍の常識だけでは二進も三進もいかない事態でも忍者のやり方で擦り抜けていける、掴みどころはないかもしれないけど目下の者から尊敬される殿様にしてあげたいんだ!」
 眩しいほどの笑顔でとめどなく言葉を紡ぎ続ける兵太夫に、やがてどこかから小さな笑い声が聞こえる。
 その声の主を咄嗟に探して誰もが振り返ると、先ほどまで見る影もなくしょげ返っていたはずの喜三太が、こらえきれなかったように肩を震わせていた。
「喜三太」
 説教を中断してはいたが終わったわけではないと咎める口調の金吾に、しかし当事者は片手を上げてそれを制止する。
「待って金吾、ゴメンだけどこれだけ言わせて。――あのね。ついに兵太夫も、生徒をお土産にして忍術学園に帰っちゃうんだなぁって思って」
 話す最中すらくすくすと笑い続ける喜三太の言葉に、周囲も意味が分からず首を傾ぐ。
 けれど唯一あぁと叫んで手を打ち、庄左ヱ門が声を上げた。
「そうだね、本当だ! 金吾がこれをしていたらもっと面白かったけど、兵太夫がやっちゃったんだね!」
 思い出したように二人で笑う姿に、なにかあったっけと元は組の面々の間を疑問符が飛び交う。
 その中で唯一口を閉ざして顔を赤らめたまま俯いた金吾に、乱太郎が一つの出来事に思い至った。
「そっか! そういえば金吾、戸部先生からのお土産として忍術学園に来たんだよね!」
「思い出さなくってもいいのに……」
「っていうか他人事みたいに言ってるけど、乱太郎達はまさに当事者だったじゃない。一部始終見守った人間の言葉じゃないよ」
 うなだれた金吾に続き、揶揄する口調で庄左ヱ門が笑う。
 そこまで言葉にされてからようやく、そういえばそうだったとそこかしこで会話の花が咲いた。
「そういや喜三太はお父上の都合での転校だったけど、金吾はかなりイレギュラーな転校? 編入? だったもんなー」
「私らは話に聞いただけだけど、戸部先生に斬りかかるなんて! すっごい勇気あったよなー、あの頃の金吾」
「いや、あれは今にして思うとただの無謀……ってちょっと待て! それじゃ今は腰抜けみたいに聞こえるだろ!?」
 団蔵、伊助の言葉に過去を恥じつつ反論する。それを面白おかしく冷やかす数人を横目に、兵太夫が感慨深げに腕を組んだ。
「あぁそっか……。そう思ってみると、ついに僕もある意味では土井先生級になったのかなーと思っちゃうね。これは学園に帰ってからもトラブルの予感だ……!」
「城の若様を自学級に引っ張り込んどいて、なにを当たり前のことを」
 わくわくと昂る感情を押し隠しも出来ずにニヤニヤと表情を崩す兵太夫に、冷静な突っ込みが返る。しかしそんな虎若の頭を目にも止まらぬ速さで平手が打った。
「っせぇぞ虎若」
「……お前ホンット矛盾だわ……」
 打たれた側頭部を押さえながら恨み節を漏らす姿を、当然のごとく見ぬ振りでやり過ごす。ふんと鼻を鳴らした兵太夫を見て、しんべヱはにこにこと喜三太に顔を向けた。
「でもそう考えると、僕らも大人になっちゃったねぇ。忍術学園の先生に、鉄砲隊の若頭領。風魔の頭領に剣術指南の先生、忍術学園の穴丑に、山伏兼忍、馬借の若旦那、フリー忍者、紺掻きと忍者の二足の草鞋に、半忍半農」
「それに大店の若旦那もねー。ホント大人になるのなんてあっという間だよ。……でも会うと今でもみんな全然変わってないのに、会うことすらなかなか難しくなっちゃったねぇ。今回はせっかく会えたのにこんな大騒ぎになっちゃってさ、全然気晴らしにもなりゃしない」
 ケラケラと笑い飛ばすような口調から一転、過去を懐かしむように沈み込んだ声色に、金吾が振り向く。
 そういえばこの騒動が起こる前日、喜三太はみんなに会いたいと愚痴を吐いていたのだったと思い返された。
「……そういうことか」
 呟き、なんとも複雑な心境で頭を掻く。
 当然のことではあるのだが、大人になってそれぞれの役割を持ったことで会える確率というものは格段に減った。
 特に金吾と喜三太にいたっては畿内から遠く離れた相州が現在の居住地だ。その上、喜三太は風魔の頭領就任から七年間は風魔の地以外での一人歩きを禁じられている。かなりの自由が利く級友達に対し、羨望や嫉妬まではいかない、寂しさにも似た感情が湧いたのも分からなくはなかった。
 あの日箱根に一人歩きに出たのもその関係だろうと推測される。足柄には賑わいのある場所など見当たりもしないが、箱根まで出れば湯治場として名を馳せるだけあって土産物屋や甘味処は目白押しだ。
 恐らく箱根でいくつかの土産を買いこみ、遠からず畿内に赴けるようリリーに交渉するつもりだったのだろうと溜め息を吐く。
 そんな金吾の心情を与四郎も汲んだのか、大きな手が背中を軽く叩いた。
「よォ喜三太、もうこのせーだ。オメーこっから畿内に出向いてヨ、今の忍術学園をちっとんべー見学してったらえぇだーよ。リリーのばっさまも、こんだけ風魔を空けちまった後じゃーもーこまけーこたぁせったりしねーべ。教師じゃねーけど、オメーも風魔のガキんちょどもにいろいろおせーなきゃーなんねー立場だからよ。たまにゃー勉強すんのもわりーこたぁねーべ」
「へ」
 きょとんと、垂れた目がパチパチと瞬く。
「え、でも、えっと」
 突然の展開に理解が追い付かないのか、困惑の表情が周囲を見回す。やがて助けを求めて縋り付くような視線を受けた金吾が、仕方なさそうに視線を伏せた。
「まぁ、あれだ。今回の件を生徒達に話すにも、頭領がヘマこいたって正直に言うのはかなり問題があるからな。それなら、えぇと……うん。ちょっと突然思いついて、畿内の忍者教育現場を見に行ってきたとでも言ったほうが……都合はいいんじゃないか?」
 探りながらの一言に、一瞬周囲に沈黙が落ちる。
「突然の思いつき……」
 ぼそりとこぼれた誰かの呟きをきっかけに、やがて喉を揺らすような笑いがそこかしこで転がり始めた。
「ねぇ庄左ヱ門、突然の思いつきだって」
「いやいや、そこは真似しちゃいけないでしょ。だって、ねぇ」
「喜三太まで学園長先生みたいになったら、ププッ。まずいよねぇ」
「やだよ、僕だってそこは似たくないよ」
 クスクスと囁き合う声はもはや全員から聞こえる。もしや失言だったかと額を青くした金吾が引き攣りつつ見回すも、誰も彼もが楽しげに肩を震わせていた。
 やがて嬉しそうに頬を緩めた喜三太が、金吾の膝に手を乗せる。
「ありがとうね金吾。そうだよね、たまには思いつきだって言い張っちゃうのもアリだよね」
 それでいいならそうしてしまおうと、いっそ開き直った様子で静かな息を吐いた。
「ねぇ兵太夫。教員長屋、僕と金吾が泊まれるような空き部屋ってあるかな」
「うん? あぁ、えーとねぇ。あいにくと教員長屋に空いてる部屋はないんだけど、学園の地下にならいくらでも部屋があるから好きに使ったらいいよ。三治郎が泊まりに来る日は僕も地下を使うことにしてるんだ。学園になにがあってもいいように出入りが簡単な場所をいくつか用意してあるから、どれでも好きなのをどうぞ」
「うん、ありがと!」
「昔みたいに迷宮になってないなら、ありがたく使わせてもらう」
 にこにこと感謝の意を告げる喜三太に対し、金吾は過去の経験が足踏みさせるのか、多少引き攣った表情で続く。
 それを可笑しそうに見遣り、虎若と団蔵がにんまりとした笑みで近寄った。
「おやおやー? 風魔で剣術指導やってる先生はカラクリに遅れを取りますかー?」
「それとも未だに無傷で出てこられる自信がありませんかぁー?」
 趣味の悪い顔で冷やかし言葉を投げかける二人に、びきりと青筋が浮かぶ。しかし刀に手をかけるような真似はせずただただ静かに振り返った金吾に、二人は意外そうに首を傾いだ。
 だが報復がないわけもなく。
「兵太夫、朗報だ。今度カラクリ罠を仕掛けたら、この二人が巡回点検してくれるそうだぞ」
「おっ、それは助かる」
「言ってないけど!?」
「微塵たりとも言ってないけど!?」
 真顔での発言を冗談と知りながらも楽しそうに受け止めた兵太夫に、忍たま時代散々な目に遭わされた覚えのある二人から悲壮な悲鳴が上がる。
 弁解と謝罪でギャアギャアと騒がしさを増していくその一角を嬉しそうに見つめる喜三太の背後で、優しい気配が傍寄った。
「学園に泊まってる間、僕の家にもおいでよ。おしげちゃんやカメ子もきっと歓迎するから」
「もちろん私の家にもね! ナメクジのエサになりそうな野菜くずならたくさんあるし、ユキちゃんも心配してたんだ」
「土井先生の顔も見に来いよ。今回の話はしっかり耳に入ってるから、どやされるだろうけどな」
 わいわいと誘いかける声の波に、隠しきれない喜色を浮かべてへらりと崩れる。
 つい先ほどまで叱られていたことなど綺麗に忘れ去っているかのようなその表情に、金吾はやれやれと肩を竦めた。
「相変わらずは組には甘やかされてるなぁ、あいつ」
「一番甘やかしている奴が言っても説得力ないよ」
 呆れた声色に追随してきた言葉に、思わずぐっと詰まる。
「……庄左ヱ門」
 見れば、賑わいから抜け出した庄左ヱ門がゆっくりと壁に背を預けるところだった。
「まぁいいじゃないか。どうせ足柄に戻ったら、僕らの小言なんて比べ物にならないくらいのお叱りをリリーさんから受けるんだろうしさ。喜三太は元来奔放な性格だ、ずっと行動を規制されちゃ、ストレスで逃げ出したくもなるよ。頭領になったからと言っても、そればかりはそうそう変わらない」
 は組の面々に関しては、鞭よりも飴を多く施したほうがよく育つんだと笑う声に、きっと金吾自身のことも含んでいるのだろうと察して僅かに肩身を狭める。
 しかしその指摘通り、少々甘やかしすぎているくらいのほうが心身ともに健康なまま責務にも備えられるのだろうと、視線の先にある喜三太の笑顔に頬杖をつく。
 明朝、若君の出立準備が済み次第畿内に発つ。
 そこから学園に逗留し、指導風景を見学したり知り合いを回ったりする間に、一月程度は矢のごとく過ぎ去るだろう。そうなるとこれまで不在の期間のことも考えると、風魔に戻る頃には二月ほど留守にした計算になる。
 となれば喜三太のみならず自分自身も含め、リリーはどれほどまでに呆れ、もしくは叱責するだろう。
 だがそれも。
「……まぁ、あいつがそれで回復できるなら――揃って怒られてやるくらいのことは安いもんかな」
 庄左ヱ門の言うとおり、確かに自分が一番喜三太に甘いのかもしれないと気まずくは感じながらも改める気持ちは微塵も湧いてこない。視線はただただ騒ぎ続ける渦中に注がれ、その中で、風魔の里では自分の前以外で見られなかった最高潮に幸せそうな顔を眺める。
 些か物騒ではあったものの、久方ぶりの長期休暇とでも思えば悪くはない。
 風魔流忍術学園の生徒達の剣術指導が滞ってしまうのは少々難儀だが、師と仰ぐ戸部すらも在学中よく留守にしていたことを思い返し、非常勤講師とはそういうものだと開き直った。
 やがて金吾の視線に気付き、喜三太がはしゃいだ声で呼びかける。
 その声に逆らう気すら起きず素直に腰を浮かせながら、ともかくはこの休暇で存分に発散させ、二度とこんな騒動を起こさせることのないようにしなければと心に決めた。


−−−了.