柔らかな陽光、絶好の昼寝日和。
 自分の部屋、障子をすり抜け降り注ぐ暖かさ、うずくまって眠る同室者。
 ふわりと広がった髪、安らかすぎる寝顔。
 出来ればそれに触れて隣に腰を下ろし、いつまでも見ていたいと心の底から願うのに。
「縦横無尽にナメクジの這い回った痕跡が……!否応なしに僕を阻む……!!」

(金喜)


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 さすがに愛想も尽きる頃かと真剣に考えが及んだ。
 は組の父だ母だと言われていたって、別に本当に契りを結んでいるわけでもなければ結納を交わした覚えもない。
 確かに互いに好意を持っているのは確かなところで、それも既にお互いに言い交し合ってはいるが、喧嘩しないかと言われればそんなことがあるわけもなく。
 他のは組の面々から見れば、離婚問題だの云々言われそうだが。
「団蔵がいないのに自分で思い立って洗濯しようとしたのは褒められるんだけどね、虎若。だけどその後が問題じゃない? ね? 白無地のものと色柄物を一緒に踏み洗いするとかなんなの? 染物屋に対する挑戦状なの? ついに脳味噌まで筋トレ開始?」
「……ごめん母ちゃん。勘弁して」
「するかぁああああああああ!!!!!!」

(虎伊)


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 うららかな春の陽射し、陽光の中の教室。その中で顔を寄せ合い、囁くような声音で笑い合う二人の声。
「あぁ、なんだそういうトコ気にしちゃうんだ?僕さ、三ちゃんのそういう繊細なトコめちゃくちゃ好き」
「なに言ってるのさ兵ちゃん。僕だって兵ちゃんのそういう大胆不敵なトコ、誰にも負けないくらい大好きだよ?」
 指先がするりと白いものを撫で、また含むような笑みが零れる。
 教室の端に広げられた怪しげな設計図。それを見下ろしながら蕩けるような声音で話す人影を教室の中心付近から不穏に見遣り、団蔵はぐったりと机に突っ伏した。
「……えっちぃ夜の遊びみたいな声で次のからくりの相談とかマジやめてください兵様三様……」

(兵三)


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 脳筋だ脳筋だとは正直かなり思っていたことだが、この場合その予測の範囲を軽いかっ飛ばしていたと言うかなんと言うか。
 とりあえず自分の先見の明もは組の勘も、まだまだ磨く余地があるらしいと気付かされ、庄左ヱ門は眉間を寄せたまま、勢いよく障子を開き輝かんばかりの視線で自分を見ている団蔵を見返した。
「……はぁ?」
「だから!ケンカするぞ、庄左ヱ門!」
「…………なんで」
「庄ちゃんの怒声欠乏症!」
 ウインクと共に親指を立てる仕草に、思わず頭を抱える。
「……バッカじゃないの」

(団庄)


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 君の姿は騙っているこちらとしては酷く心地よくて、勿論そんなわけはないのにいつでも君に抱き締められているようなそんな錯覚さえ覚えてしまう。
 君の姿でいればいつだって君は自分を探して追ってくれる。それが嬉しくて幸せで、他の誰の顔よりも君のそれを愛用してしまうのだけれど。
「さぁぶろぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「今回ばっかりは、ちょ、君の顔で悪戯を仕掛けた自分が心底憎い!!」
「だったら悪戯するのやめろよバカァああああ!!」

(鉢雷)


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「久々知くん、相変わらず焔硝蔵は寒いねぇ」
「そりゃあ、火薬の保管は冷暗所ってのが決まりだから仕方ないだろ」
「……火鉢持ってきちゃダメかなぁ」
「ダメ! 引火したら学園ごと吹っ飛ぶだろ!」
「じゃあさ、久々知くん。ギュー」
「…………はいはい」
「えへへー」
 柔らかな髪の感触に頬を寄せ、満足げに顔を綻ばせる。それを入口からこっそりと覗き込み、三郎次は溜息を吐いて冷たい地面に腰を下ろした。
「……さすがに入る気がしないんですけど、どうしたもんやら」

(くくタカ)


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「この学園内に少なからずいるだろう私の信者達から言わせてみれば、六年は全て私の従僕と見ている者も多いかもしれないな。特にあのギンギン忍者馬鹿など、まぁさすがに六年も同クラス同室だっただけあって、今になってみれば近くに私がいないと落ち着かないらしい忠犬っぷりで」
「……田村。あれを石火矢で吹き飛ばせ」
「ユリコやサチコをキズモノにし兼ねない指令は全力でお断りさせて頂きます」

(文仙)


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 風のように駆けるあなたが好きです。嬉しそうに、幸せそうに、いつも全力で走っては大声で私を呼ぶあなたの顔を見るのが大好きです。
 あなたが駆けたその風が、この頬を掠め髪を揺らすのはとてもとても心地よく、思わず顔を緩ませそうになるのです。
 だけど。
「お願いですから、後ろで死にそうになってる後輩を時折振り返ってくださいませんか七松先輩」
(こへ滝)


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 不運不運と言ってはいるが、昔から考えてみれば今のほうが随分とマシになっているような気がする。
 穴から引き上げる回数は増えたものの池から引き上げる回数は減ったし、哀れみたくなるような不運は多少減って、今はまだ納得のいく不運ばかりが毎日続いているように感じられる。
 それを鑑みれば、不運体質というのも自分が同室になったことで少しは改善傾向にあるのかもしれないと僅かに唇を歪ませた。
「言っておくがな留三郎。それはお前に不運が感染して、感覚が麻痺しているだけだからな」
(留伊)